東京地方裁判所 昭和32年(ワ)7596号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔事実と判断〕原告は、その所有の本件家屋を亡森啓に賃貸していたが、森啓の死亡後その妻である被告が賃貸借契約を承継したところ、被告が昭和三二年八月初から原告の承諾なしは島田ふじに本件家屋を転貸したとして、この無断転貸を理由に賃貸借解除の意思表示をして、本件家屋の明渡を求めた。そして、本件家屋の賃借権は、森啓の妻たる被告、長男森照久、長女山菅節子の三名の法定相続人の準共有となつたものであるから、本件訴は必要的共同訴訟で相続人全員を被告とすべきであるとの被告の主張に対し、本件賃貸借契約は、実体上森啓を代表者としその同居の家族である右三名を構成員とする生活共同体(家団)との間に存在し、契約面で森啓が代表して賃借権をもつていたのであるが、その死亡によつて被告が家団の代表者に選ばれ、原告も被告が賃借権を承継することを認めたものである、と主張した。なお被告は無断転貸の事実を争う。
判決は、まず本件家屋賃貸借の承継人の点について次のように判示し、無断転貸の事実を否定して、原告の請求を排斥している。
「……を綜合すると、被告の亡夫森啓が本件家屋について賃借権を持つていた当時は、被告、長男森照久及び長女山菅節子は森啓の家族として本件家屋に同居していたが、森啓の死亡後は被告が亡夫に代り原告よりの賃料の値上の申し込みに対しこれを承諾し、後段認定の家屋の改造について原告の承諾を求める等賃貸借契約に関する権利義務の行使、履行をなし、長男森照久及び長女山菅節子は被告の家族として本件家屋に同居したに止り、長女山菅節子は、後段認定のように本件家屋におけるパーマネント営業に従事したが、家屋の改造、一部転貸等の交渉は自ら若年者であるとして行わず、長男森照久昭和三一年頃から昭和三二年八月頃まで他に別居していたほどで両名共独立して賃借権を行使することなく、原告においても被告は賃貸借契約の承継者と認め、これに関する交渉は全て被告と行つていた事実を認めることができる。このように、数人の法定相続人中ある者が、相続財産である賃借権を行使し、その他の者はこれを行使しない場合には、これを行使する者のみが相続により賃借権を承継し、相続開始を知りながら、賃借権を行使しない者は、賃借権の持分を放棄したと認めるのが相当である。従つて、本件においては、被告のみが本件家屋の賃借人たる地位を承継したものといえる。」